「コムギ博士の1分豆知識」Vol.1ではシリアと小麦の話をご紹介。全国で料理教室・パン教室を展開するホームメイドクッキング公式サイト。

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Vol.1 シリアと小麦の話

今回はシリアとコムギの話です

小麦の栽培が始まったのは、「肥沃な三日月地帯」として知られる中近東地域です。その中でもシリアは、野生の小麦が自生し、研究者が注目する地域です。シリアには国際乾燥地域農業研究センターという国際機関があり、私も一時期そこで研究をしていました。現地では、発酵させないホブスという平たいパンが主食でしたが、豆のペーストや羊肉などの地元の料理に非常に合い、私は結構気に入っていました。残念ながら、シリアという国名は、最近はいい話題で耳にすることがありません。内戦で市民に多数の犠牲者が出ていると聞くと、平和な頃のシリアを知り、人々の温かさに触れたことがある人間としては非常に心が痛みます。

戦争は、作物にも深刻な影響を及ぼします。一万年以上の小麦栽培の歴史をもつシリアには、古い貴重な品種が数多く存在します。それらの多くは、収量が少ない、脱穀しにくいなどの欠点から、近代化にともない新しい品種に置き換わり、二十世紀後半に急速に消失しました。しかし、長い間その土地で栽培されてきた品種は、環境適応性、耐病性、良食味性などの有用遺伝子をもつ可能性があることから、近年は育種の材料として価値が見直され、シリアでも研究機関が保存事業を始めていました。しかし、この内戦でおそらくその事業は中止され、まだ村々に残っていた古い品種も途絶えてしまうでしょう。一度消失した品種は、例えどれほど有用な遺伝子をもっていたとしても、取り戻すことはできません。貴重な品種を残すことは、未来に対する我々の責務です。人類の未来のためにも、内戦が収まり、数多くの小麦の品種を育む平和で豊かなシリアの大地が一刻も早く戻ることを願ってやみません。

シリア農務省に保存されていた伝統的な小麦品種の穂

筆者:笹沼恒男
2013.5